ITIL 徒然草

サービスマネジメント部門の構築方法
"Building an ITIL-based Service Management Department"


今回は、ITIL V3 の補完ガイドの1つである "Building an ITIL-based Service Management Department"(ITILベースのサービスマネジメント部門の構築方法) を紹介します。 サービスマネジメントの成功は、人(people)プロセス(process)技術(technology) のバランスがとれた組み合わせによって達成されます。 人の要素であるサービスマネジメント部門もプロセスや技術と同じように、 計画立案や注意深い設計が必要です。

第1章(伝統的な組織構造)では、古代エジプトの社会構造に例え、 組織がバランス良く統合され機能するために不可欠な要素として次の8項目を挙げています。

- ビジョンや使命がある
- 明確な意思決定者がいる
- 組織の決定を実践する手段がある
- ナレッジと会計を管理する適切なリソースがある
- 顧客とコミュニケーションを図る仕組みがある
- 技術面を主導する者がいる
- 日常的な運用活動がある
- 基盤となる支援活動がある

第2章(段階的アプローチの概要)では、ITILをベースとするサービスマネジメント部門を構築する過程の概要を説明しています。 全部で次の9つのステップで構成されています。

1. プロジェクトを開始するための事前準備を行う
2. 部門のパラメータ(プロセス、活動、機能など)を定義する
3. 主要で基本となるITILのタスクを特定する
4. ITIL以外の基本となるタスクを特定する
5. 基本タスクを既存、計画、不採用に分類する
6. 関連するタスクを集合である関連基本タスク・パック(AFTP)を作る
7. サービスマネジメント組織を組み立てる
8. 組織構想から組織図を作成する
9. 各部門に資源を割り当てる

本書の第3章から第11章までは、上述した各ステップの説明になっています。 まずは、サービスマネジメント部門が行うべきプロセスや活動、そして必要な機能をタスクとして洗い出し、 「既に存在するもの」「これから導入を計画するもの」「必要のないもの」という3つのカテゴリに分類します。
(ステップ1~ステップ5)

次に「既に存在する」あるいは「これから導入する」として選ばれたプロセスや機能を、 求められるスキルセットや測定基準などの観点から分類します。(ステップ6) この分類によって作成される関連するプロセスや機能の集まりを関連基本タスク・パック (AFTP:Associated Fundamental Task Packs) と呼んでいます。

例えば、サービスデスク、イベント管理、インシデント管理、問題管理を 障害による事業へのインパクトを低減させることを目標とするAFTPとして定義したり、 需要管理、キャパシティ管理、可用性管理を高度な技術的スキルが求められるAFTPとして定義したりします。

特筆すべきことは、ステップ5(基本タスクの分類)とステップ6(AFTPの設計)において、 基本タスクの現状や具体化したAFTPを評価した表を作成し、 関係者にレビューしてもらうということです。これらの作業により、 現在の課題や将来の方向性を関係者間で共有することができます。

さらに次のステップでは、1つ以上のAFTPを組み合わせて部門およびその タスクを定義します。その際に注意することは、 第1章で指摘された組織に必要な8つの必須項目が、 バランス良く部門内に存在していることを確認することです。
(ステップ7)

例えば、障害を管理する AFTP において、 サービスデスクは「基盤となる支援活動」を行う機能であり、 イベント管理やインシデント管理は「日常的な運用活動」を行うプロセスです。 また、問題管理は「技術を主導」するプロセスとなります。 「ビジョン」「意思決定者」「実践手段」は、それぞれ組織の達成目標、 上級管理職、そして現場のマネージャです。

しかし、このAFTPだけでは「ナレッジや会計を管理する者」「顧客とのコミュニケーション手段」が欠けています。 例えば、「ナレッジや会計を管理する」プロセスとしてサービス・ポートフォリオ管理、「顧客とのコミュニケーション手段」として サービス・レベル管理を含む別のAFTPをこの部門に組み込むことでバランスのとれた組織になります。

このように、AFTP(関連基本タスク・パック)を組み合わせることで単独で機能する部門を作り、 その構想を組織図に反映させます。さらに、必要な資源を割り当てることでバランスのとれた ITILベースのサービスマネジメント部門が完成します。
(ステップ8~ステップ9)

本書では、AFTPや組織図の例が図を使って視覚的に示されています。 実際には、文章だけで説明するよりもそれらの図を見た方が直感的に理解できるかも知れません。 また、現時点ではこの本の翻訳版はありません。

次回は、2011/6/25の予定です。

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