前々回はマネジメント段階というテーマで、前回は例外による管理というテーマで、 PRINCE2のプロジェクト管理手法についてお話ししてきました。 これまでのように、 PRINCE2の1つ1つの概念を丹念に伝えていくことは大切なことですが、 PRINCE2の全体像がいま一つ伝わっていないのではないかと思い、 少し方針を変えて、別の角度からPRINCE2を説明したいと思います。
具体的には、これから数話に渡って、 多くの方がプロジェクト管理の標準として理解しているPMBOKと比較しながら、 PRINCE2を紹介する方法を試みたいと思います。
ただ、最初に強調しておきたいことは、PRINCE2とPMBOKは排他的な関係ではなく、 それぞれが過去の経験から得られた、プロジェクト管理に関する貴重なナレッジの集合であり、 どちらか一方を採用することが、他方を排除するものではないという点です。
まず、PMBOKとPRINCE2との比較において、最も大きな相違点と思われるのは、 誰が何を判断材料として、プロジェクトをコントロールするかに対する考え方です。
PMBOKは、顧客とプロジェクト・マネージャの合意であるプロジェクト・チャーターがあり、 プロジェクト・マネージャは、その合意内容を基準として、 すべての判断と行動を決定します。このプロジェクト・チャーターは、 プロジェクト開始時点における主要な利害関係者によるコンセンサスであり、 プロジェクト期間中にはめったに変わることはありません。
プロジェクト・マネージャはプロジェクト期間中、 プロジェクト・チャーターの目標を達成するために全権が委任され、 説明責任と実行責任を持ってプロジェクトの指揮にあたります。
PRINCE2の場合、 合意されたプロジェクトに関する合意事項の変更は、、 その良し悪しは別として、PMBOKより柔軟に行われる可能性があります。 また、プロジェクトに対する最終的な意思決定権は、プロジェクト・マネージャではなく、 その上位に位置するプロジェクト委員会に属しています。
プロジェクト・マネージャは日々のプロジェクト管理に対する意思決定権と説明責任を持っていますが、 それは、品質、予算、時間軸などがあらかじめ設定されている許容範囲に留まっている限りであり、 その許容範囲を逸脱した場合には、そのことをプロジェクト委員会に報告し、 判断を仰がなければなりません。 つまり、プロジェクトの最終的な意思決定権と説明責任は、 あくまでもプロジェクト委員会が保持しているのです。
この場合、プロジェクト・マネージャの判断や行動が、 プロジェクト委員会によって縛られてしまうという懸念がありますが、 許容度を変えることでプロジェクト・マネージャの自由度を調整することができます。
両者の違いはあたかも、PMBOKが生まれ育った大統領制の米国と、 PRINCE2が育まれた議員内閣制の英国の違いを反映しているようにも見えます。 つまり、効率的にプロジェクトを推進する権力集中型の手法と、 最終的な意思決定は、重要な利害関係者の話し合いに委ねる 権力分散型の管理手法という違いです。
これは、どちらが良いという話ではなく、 優れたプロジェクト・マネージャを数多く要する組織であれば、 PMBOKのような権力集中型の管理手法が効果的でしょうし、 必ずしもプロジェクト・マネージャにすべてを任せるべきではないという考え方を持っている組織であれば、 PRINCE2のような権力分散型の手法も有力な選択肢の一つではないかと思います。
ここまで読まれた方は、PRINCE2とPMBOK は、やっぱり排他的ではないかと思われるかもしれません。ただ、今回は違いを強調しているからであり、 それぞれの管理手法からは多くの共通点と、 お互いが学び合うべき、それぞれの優れたナレッジを発見することができます。
次回は、2015/3/10の予定です。