2007年に出版されたITIL バージョン3は、 それまでバージョン2に慣れ親しんできた読者にとってはかなり斬新な内容でした。 新たな概念の多くは定着しましたが、いくつかの概念は多少の違和感があり、 2011年版において調整されたようです。
そのひとつが、このベストプラクティスという言葉です。 バージョン2の「サービスサポート」における序章は、 次のような表現で始まっています。
本書は、業界におけるITサービスのサポートとデリバリのベストプラクティスである、 ITIL(IT Infratsrucure Library) の改訂版として発行された一連の書籍の一部である。(サービスサポート P1)
その後も、この本の序章にはベストプラクティスという言葉がかなりの頻度で出てきます。 しかし、バージョン3(2007年版)になってベストプラクティスはグッドプラクティス という言葉に置き換えられ、さらに、ファンデーション試験の試験範囲に含まれるようになりました。 これは、ファンデーション・コースの講師が必ず説明しなくてはならない用語に格上げされたことを意味します。
ただ、このグッドプラクティスという言葉は、 コア書籍を出版する関係者の中でも解釈が同じとは言い難く、 今まで通りにベストプラクティスという言葉使っている筆者もいました。 この不整合は、今でもITILを説明するものにとっての悩みの種となっています。 ちなみに、弊社の教育用テキストでは次のように説明しています。
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ベストプラクティスは、組織や個人が実践の中から見出した最良のソリューションです。模範事例として貴重な参照対象になります。 ITIL には、複数の組織で広く実践されている手法や過去の経験から導き出された原則が、サービスマネジメントのベストプラクティスとして掲載されています。
ITIL V3ではグッドプラクティスという表現も使われています。グッドプラクティスには、絶対的な存在ではなく状況に応じて選択できる柔軟なフレームワークという意味が込められています。 (ITIL V3概要より)
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昨年末よりリリースが始まった2011年版には、グッドプラクティスという言葉は見当たらず、 ベストプラクティスという言葉が復活しました。 2011年版のすべてのコア書籍の序章が、次の一文から始まります。
ITILは、ITサービスマネジメント(ITSM)に関する一式のベストプラクティス書籍の一部である。
まさに、バージョン2と同じトーンでベストプラクティスという表現が使われています。 さらに、ファンデーション試験の必須用語もグッドプラクティスからベストプラクティスに切り替わりました。 このような言葉の解釈や用途の揺らぎは、サービスマネジメントの領域がまだまだ発展途上であることの証かもしれません。