ITIL 徒然草

サービス・カタログ


サービス・カタログというタイトルの書籍が、Van Haren Publishing から出版され、 その日本語訳書も今年の夏、出版されました。 サービス・カタログはサービスの一覧表ぐらいに捕えていましたが、この本を読んだあとで、 ITIL のコア書籍を改めて読み返してみるとかなり奥が深いことに気づかされました。

サービス・デザインの61頁には、次のような記述があります。

サービスとは何か?この問題は、見た目ほど簡単には答えられない。そして、 多くの組織がITとの関連において明確な定義を導き出すことに失敗してきた。・・・

そう、サービスを定義するということは、それほど簡単なことではないのです。例えば、 インターネットで書籍を販売するサービスがあったとします。 顧客は次のような手順で書籍を購入することができます。

①商品の内容を確認する
②ショッピング・カート等で注文する商品を選ぶ
③購入者の情報を入力する
④支払い手続きを選択する
⑤注文を確定する

私たちはこれらの手順で商談が成り立つことを経験的に知っているので、 この一連の仕組みをインターネット販売サービスと定義します。 このこと自体は誰もが納得するでしょう。 ビジネスは成功し、CDやDVDを販売することにしました。 このCDやDVDを販売するサービスは、本を販売するサービスの一部でしょうか? それとも別のサービスでしょうか?

もし、販売するものが異なるので別のサービスとするならば、 小説の販売と雑誌の販売は別のサービスとして扱わなければならないのではないでしょうか? もし、同じ仕組みで提供しているので同じサービスとするならば、 食料品や家電の販売を始めても一つのサービスとして扱うのでしょうか?

ここまでは顧客の視点での話ですが、プロバイダ側からの視点もあります。 サーバが2台になったら別のサービスとして管理するのでしょうか? 商品の種類ごとにサーバを別にしたら別のサービスとして管理するのでしょうか? サーバの拠点が別になったら別のサービスとして管理するのでしょうか?

サービスは、サービスレベルや優先度を設定するための重要な管理単位です。 サービスが顧客目線で定義されていなければ、 顧客のニーズに合ったサービスレベルのコントロールはできません。 例えば、「送金」も「現金引き出し」も1つのサービスとして管理されているATMは、 「他銀行へ送金」ができない時間帯には「現金引き出し」もできません。

サービスマネジメントの目的は事業とプロバイダの整合性を高めることですが、 事業との整合性を高めるためには事業そのものを理解しなければなりません。 サービス・カタログを作成する作業は、プロバイダが顧客にとってのサービスを理解する良い機会となります。 サービス・カタログは、プロバイダが顧客の事業プロセスとサービスの関係を正しく理解することを支援する重要な役割を担っているのです。

次回は、2011/12/25の予定です。

第135話