"ITSM by ITIL, PRINCE2 and DSDM Atern"
今回は、ITIL V3 の補完ガイドの1つである "Agile Project and Service Management"(アジャイル・プロジェクトとサービスマネジメント)を紹介します。
この本には、"delivering IT services using ITIL, PRINCE2 and DSDM Atern" (ITIL, PRINCE2, およびDSDM Atern によるITサービスの提供)という副題が付いています。
この本は、アジャイル開発のDSDM Atern、 プロジェクト管理のPRINCE2、そして、サービスマネジメントのITIL と、それぞれの領域で実績のあるフレームワークを利用してITサービスを提供するという試みを 実際に行って得られた経験を伝えるために書かれた本です。
この本の著者であるDorthy Tudorは、DSDM Aternのプラクティショナ(実践者)であり、 PRINCE2のプロジェクト・マネージャ、そして、ITILのサービス・マネージャです。 このプロジェクトの舞台となった会社である「Octagrid」は、 インターネットで検索してもヒットしないのでちょっと心配になりますが、 他の4つの事例はすべて実在する組織です。
アジャイル開発を一言で表現すると、 要件定義、設計、構築、テスト、 展開という工程を順番に実施する従来の開発手法ではなく、 小規模な開発と利用者とのレビューを繰り返しながら段階的にソフトウェアを完成させていく、 最近脚光を浴びている新しい開発方法です。
この本で取り上げられているDSDM Aternは、 このアジャイル開発で用いられるプロジェクト管理技法の1つです。 一般に、成果物の品質は機能、コスト、時間 の量によって決まると言われています。 従来のソフトウェア開発プロジェクトでは機能は仕様という形で最初に決まるので、 成果物の品質はコストと時間の量によって決まっていました。 しかし、DSDM Aternでは、時間とコストを最初に設定し、 さらに品質を犠牲にしない範囲で機能を実装します。 つまり、DSDM Aternでは、品質、時間、コストが最初に保証されるのです。
その一方でDSDM Aternにおいては、どこまでの機能が実装されるかは、プロジェクトの進捗状況に左右されます。 当然、実装する機能に優先順位を設定する必要がありますが、そこで使われるのが MoSCoWと呼ばれる優先順位づけの考え方です。これは、それぞれの機能を、 Must(必須)、Should(かなり必要)、Could(できたら)、 Won't(今は不要)の4段階に分類し、優先度の高い機能 から実装していくというものです。つまり、時間やコストの制約が高まれば高まるほど、 優先度の低い機能は開発対象から外されていきます。
この本にはアジャイル開発でサービスを開発し、 サービスオペレーションに展開する際に、 PRINCE2やITILをどのように組み合わせ、 それぞれの利点をいかに生かすかについての工夫や課題が紹介されています。
今までは開発者か運用者のどちらか一方の立場で、 サービス供給に至るまでの方法論が論じられてきました。 この本もサービスオペレーションに展開するまでの活動に注目している点で、 運用者というよりも開発者向けに書かれた書籍と言えます。 ただ、3つの実績のあるフレームワークを通じて複眼的にサービスの設計、 構築、展開の過程が論じられているのは、かなり画期的なことではないでしょうか。 運用側の人間がどのように変更プロジェクトに関わっていくべきかを考えさせてくれます。
次回は、2011/7/25の予定です。