ITIL 徒然草

ハインリッヒの法則


ITの世界ではITILによって一躍脚光を浴びるようになった「インシデント」という言葉ですが、この インシデントには有名な法則があります。アメリカの保険会社で技術・調査の 副部長をしていたハーバート・ウィリアム・ハインリッヒ(1886-1962)は、1929年 に論文の中で以下のような事実を報告しました。

「重傷」以上の災害が1件あったら、その背後には、29件の「軽傷」を伴う災害が起こっており、300件もの傷害につながる可能性があった災害が起きている。

これがハインリッヒの法則です。ここで述べられている「重傷」や「軽傷」などの傷害がアクシデントであり、「傷害につながる可能性があった災害」がインシデントです。

彼は損害保険のサービスを提供する側の立場で、労働災害の発生確率を分析しました。1931年に出版した 『Industrial Accident Prevention - A Scientific Approach』は、 「災害防止のバイブル」として NASAを初め数多くの著作物等に引用され、 日本でも日本安全衛生協会から『災害防止の科学的研究』という書名で邦訳版が 出版されました。1951年のことです。

この法則は「1:29:300」という分かりやすい数字に注目が集まりがちですが、この比はそれほど重要な数字ではありません。なぜならば、この数字は労働の内容や災害の定義によって変るからです。それ以上に重要なのは、ハインリッヒがこの本の中で主張している次の教訓です。

インシデントを防げばアクシデントはなくせる。

この教訓は航空機事故や医療ミスなど労働災害に対する予防対策として、様々な分野で生かされています。例えば、医療においてひやりとしたりはっとしたりした事象(hiyari-hatto cases)を、その日のうちにインシデント・レポートと呼ばれる報告書にまとめてもらう活動があります。その分析結果を現場のスタッフ全員に伝えれば、同じような行動や過ちを繰り返さないで済むようになります。
このような背景を知れば、以下に示したITIL におけるインシデントの定義をよりよく理解することができるかも知れません。

サービスの標準の運用に属さないイベントであり、サービス品質を阻害、あるいは低下させる、もしくはさせるかもしれないあらゆるイベント

第9話では、インシデントの定義についてもう少し考えてみたいと思います。

第7話 第9話