事業継続性管理にまつわる有名な話があります。2001年、 ニューヨークのワールド・トレード・センターに航空機を 激突させるという前代未聞のテロ事件が起こりました。 その後ビルは崩壊し、多数の犠牲者が出たこの不幸な事件は、誰にとっても 忘れることができない出来事となりました。
この大惨事とそれに伴う混乱の中で、このビルとその周辺に オフィスを構えていたある会社が驚異的な復活を成し遂げました。 それは、この地域に9,000名の従業員を抱えていた金融業界の大手、メリルリンチです。
事件とメイルリンチが取った行動を以下にまとめてみます。
2001/9/11
8:48 WTC北棟にアメリカン航空11便が激突
8:55 メリルリンチ社内に災害対策本部を設置
9:03 WTC南棟にユナイテッド航空175便が激突
9:15 従業員の建物からの避難を開始
9:25 他の支店との常時回線接続(カンファレンス・コール)が機能
9:50 WTC南棟が倒壊
10:00頃 社内システム復旧のために「テクノロジーコマンドセンター」を設置
10:00頃 災害対策本部による従業員の安否確認を開始
10:28 WTC北棟が倒壊
12:00頃 従業員の安否確認終了
午後 被害状況の収集、分析、報告
夕刻 トップが対応方針を決定して、全従業員に通知
9/12 ほぼ計画通りに会社が機能し始める
9/18 8,300人が別サイトでバックアップデータを使い業務再開
注目すべきことは、地域全体が災害地域に指定されたにも関わらず、 従業員
9,000名の9割以上にあたる8,300名が、1週間後の9月18日までに 業務を再開できたことです。
避難した社員が最初に行ったことは、PCを組み立てることでした。災害地域に指定されたオフィスには 立ち入ることができず、結果としてPCを利用することもできなくなりました。 本来、PCを納入している業者に解決してもらうべき課題ですが、想定外の状況において 大量のPCを設置させることなど、ベンダーに依頼できる状況にはなく、 システム担当の社員だけではなく、すべての社員が協力して5,500台のPCを組み立てたそうです。
当時は2000年問題を乗り越えて間もない時期であり、メリルリンチも 世界規模で統一された事業継続計画の方針や手順を確立し、ツールを導入し、 詳細な復旧計画を策定していました。また、1,500人の従業員が 事業継続のための訓練を受けていました。
これら日頃の努力が功を奏して、前述のような素晴らしい対応が実現したと 言えるでしょう。ただ、事業継続性管理の成功は事業復旧計画を作成すれば 約束されるという類のものではありません。 想定外のことは常に起こりうるので、柔軟に対処できる組織の能力が必要です。
ただそのような柔軟性も、あらゆる過去のケースから学び準備を怠らないこと、 その準備を生かすことができるように従業員を教育し訓練することから 生まれてくるのではないでしょうか。 事業継続に対する従業員の振る舞いはその組織の文化なのです。
次回は、2010/02/10 の予定です。